ニューヨークの夏は、とても暑い。身体が溶けるのではないかという猛暑を何日か耐え過ごさなければならない。
それでも多くの音楽ファンがそんなニューヨークの夏を楽しみにしていることだろう。そしてその理由の一つは、頻繁にあちこちで行われる無料ライブだろう。しかも出演アーティストの顔ぶれは、毎年日本では考えられないほど豪華だ。
今回はハーレムのマーカス・ガーベイ公園でのサマーステージで、R&Bシンガーのジョーのパフォーマンスが行われた。
ジョーのコンサートはほぼ二年前にB.B.キング バー&グリルで観たきりだ。もちろん素晴らしいコンサートで、もちろんジョーの独特の歌声、揺るがない歌唱力、長年愛されている錆びることのない名曲の数々に魅了された。ベテラン歌手であるジョーが、今回も安定感のある素晴らしいパフォーマンスをする事は予め分かっていた。

しかし今回はVAW初めてのライブレポート、もしもありきたりのコンサートだったら何を書こうとどうしようと正直少し心配していたが、その心配は全くいらなかった。
さすがはジョー。ジョーは期待を裏切らない。
今回のジョーのパフォーマンスは、今まで観た数々のコンサート中でも最もインタラクティブなコンサートの一つであった。

当日は生憎の雨模様にも関わらず、一時間前には客席の大半が埋まり始める。雨が強まると一斉に観客が傘をさしだし、天和やんわになりながらも、客席は埋め尽くされ、あっと言う間に立ち見の客が脇に溢れ出す。DJベントロック(DJ Bent Roc)が素晴らしい選曲でノンストップでオールドスクールをかけ続け、待ち時間も退屈するどころかすでに観客は一つになっている様子であった。
新作アルバム『ブロッド・スウェット・ティアーズ』から『ザッツ・ハウ・ビューティフル ・ユー・アー』等を美しく歌い上げたR&B歌手のシャリーク(Shaliek)のオープニングアクトと、彼の友達がステージでスポークンワーズを披露しガールフレンドにプロポーズをするというサプライズもあり既に興奮気味の観客ではあったが、黒いシャツと白いパンツをさらりと履き着こなしたジョーが『スタッター』を歌いながらいよいよ現れると、会場のテンションが一気にあがる。

曲は『アイ・ドント・ウォナ・ビー・ア・プレイヤー』に移り、今度はジョー歌いながら急にステージから降りだす。さらには「後ろの方にも行きたいな。」と言うと観客が大きくざわめく。
暫くステージの下でファンと触れ合いながら歌っていたジョーがやっとのことステージに戻ったと思ったら、次は『モア・アンド・モア』を皮切りにスロージャムタイムが始まり、会場の女性が黄色い声を上げる。
『ザ・ラブ・シーン』を他の曲と同じく丁寧に歌い上げ、『オール・ザ・シングス(ユア・マン・ウォント・ドゥー)』のイントロが流れると、待っていましたとばかりに更に女性客が大喜び。ジョーが「一緒に歌って」と会場に呼びかけると会場全体が歌いだす。

曲中ジョーはまたステージから降り観客席のファンの中に飛び込んでゆき、またもや観客は大騒ぎであった。もう完全に観客に紛れてしまい、ジョーがどこにいるのかすらわからない。今回はステージから遠くの観客席の方までどんどん上がって行く。会場のファンに大サービスしながらステージにやっともどったジョーは丁寧に「20年の活動を支えてくれてありがとう。ニューヨークが一番だよ。」とお礼を伝える。

そして締めのヒット曲、『アイ・ウォナ・ノウ』を歌い始める。会場はもちろん大合唱だ。しかしそこにステージの隅に立っていた一人の女性がジョーに駆け寄りジョーに何かをささやく。ジョーの姪っ子さんのようだ。『今日は彼女の誕生日なんだ。』とジョーがいう。立ち去ろうとする彼女の手を引っ張りジョーは暫く姪っ子さんを離さなかった。
そして感謝を込めながらホックを多めに繰り返し歌い、観客のファンを更に喜ばせる。
幾度となく会場のファンにありがとうと告げ、去り際には丁寧なお辞儀をしながらステージの裏へと消えて行った。
終始感謝の姿勢を示し続けたジョーからは、20年間の音楽活動を直に支えているハーレムのオーディエンスの為にパフォーマンス出来たことを喜んでいるようにすら感じられた。 20年間ぶれない正統派R&Bを歌い続けているジョーには、彼の音楽のように、同じくぶれないファンがいる。ハーレムのオーディエンスからいかにジョーと彼の音楽が親しまれ、愛されているかということを、ひしひしと感じられた素晴らしいコンサートであった。