時は1997年、10月7日。今から丁度17年前のこの日、恐らく20年、30年経ってもその存在感が色褪せないであろう、一枚のアルバムがリリースされた。
ジャネット・ジャクソンの6作目のアルバム「ヴェルヴェット・ロープ」だ。
ローリングストーン誌の500 Greatest Albums of All TIme にも選ばれ、ジャネットの慎重な音楽キャリアの中で間違いなくマイルストーンであるだろうこの名盤について、いまさらレビューを書く必要はないかもしれない。しかしあえて、第一弾のディスクレビューには我らがVAWのVelvet Air Wave の名前の由来の一つともなっている、この作品を取り上げさせて頂くことにする。
彼女の内に秘めた自分の感情と他者とを隔てる境目を、授賞式や映画のプレミア等で使われるヴェルベットロープと例え、苦悩、自己イメージ、自己嫌悪、家庭内暴力、同性愛、エイズなど、様々なテーマに真摯に向き合ったというこのアルバムは、彼女の作品の中で最もナイーヴな作品であると言えるだろう。
ジャネット自身も、このアルバムのリリースに当たって次のように説明している。
「自分の人生全体の中で一番個人的な作品であり、ここまで深く自分の過去からの苦悩に目を向けた事はなかった。避けてきたけれど、向かい合わなければんらない心の旅であった。」
それだけに、作品全体を通してリスナーにも自然と自分の内側に奥深く潜む感情に目を向けさせるような、深みと説得力がある。
アルバムは16の曲と、7つの間奏で構成されており、作品全体を通して様々なジャンルの要素が織り込まれている。「Twisted Elegance… 誰にでも、自分が特別な存在だと感じる必要がある…」と語るジャネットのつぶやきの後にアルバムのタイトル曲である「The Velvet Rope」へと続く過程は、これから始まるジャネットの内心との対峙の旅への誘いのようである。
次のトラックはジャネットの心の葛藤が聞こえてくるような力強いリリックと序奏部とさびのコントラストが激しい感情を際立たせる「You」。Q-ティップとのコラボレートしたR&B,ヒップホップの要素の強い「Get Till It’s Gone」は、言うまでもなく後の多くのアーティストに影響を与えた曲の一つである。ジョニ・ミッチェルの「Big Yellow Taxi」をサンプリングするにあたりジャネットが直接ジョニ・ミッチェルに電話をかけ、ヴォーカルでの参加もジャネット自身が直接お願いをしたというエピソードからも、ジャネットの彼女への尊敬の念が伺える。
次曲の「My Need」からは大人な空気が漂い始め、軽快なリズムの「Go Deep」へと続く。ミュージックビデオ中のテイ・ホッジズ演じる少年の慌てぶりは笑ってしまうが、もしもジャネットが友達を引き連れ家に押し掛けて来たらこうもなるだろうと納得してしまう。
ホモフォビアについてとそれが生み出す苦しみについての曲である「Free Xone」から一転した明るい雰囲気の「Togather Again」は、エイズで亡くなってしまった友人と、父親をなくした少年からのファンレターからインスピレーションを得て、元々はバラード曲として書かれたという。この曲は商業的にも大成功であったので、当時盛んに流れていたのを覚えているリスナーも多いことだろう。
インターネットを使ったソーシャルネットワーク上での感じる空虚感からヒントを得た「Empty」。家庭暴力の経験から書かれた「What about」からはロック調な音やボーカルを通してジャネットの怒りが掴み取れるように感じられる。
そののあとは美しいバラード曲「Every time」ががらりと雰囲気を変え、ソフトながらもセクシャルな「Tonight’s the Night」へと続く。次曲の「I get lonely」はティンバーランドとテディー・ライリーによるリミックスもあり、アルバム全体の中でも印象の強い曲ではないだろうか。R&B色の強い大変聞き心地の良いこの曲は、グラミー賞のR&Bベストヴォーカルパフォーマンス部門でのノミネートを始め、数々の賞のノミネートや受賞をし、高い評価を得た。
次曲の「Rope Burn」、「Anything」と、R&Bの心地よさを持続させたままリスナーを魅了し続け、ジャネット特有の優しいデリケートな歌声が印象的な最後のトラック「Special」でアルバムは完結する。「誰でもとても特別だと感じる必要があるわ。」と歌い、明るい開放的なメロディーの中にもアルバム全体で一貫したメッセージが伝わってくる。
エレーン・ヴォン・アンワースとマリオ・テスティーノによる写真を起用したアルバムのカバーアートもまた、象徴的で多くのアーティストに影響を与えたアートワークとして評価されている。「内側に目を向ける。」というアルバムのコンセプトをそのまま表したジャネットのただ下を向くというポーズは、本作が何か深刻なテーマを携えた深い意味のある作品であることを示唆しているようでもある。
今でも多くの人にインスピレーションを与え続けているこのあるアバムは、その後2001年の「All for You」、2004年の「Damita Jo」と続く彼女の慎重な音楽キャリアの中で、間違えなくマイルストーンといえるであろう。
最後に個人的な話になってしまい恐縮であるが、当時姉の部屋にあったこのアルバムを何気なく聞いた私は、3曲目の「Get Till It’s Gone」辺りで病み付きになり、「I Get Lonely」まで聞いた時点で完全に虜になっていた。
このアルバムはPOPやIndie Rockなど様々なジャンルの影響も垣間みれるが、当時の邦楽には感じられなかったグルーヴ感やダークな深みのある音に心地よさと衝撃を感じ、私はもの凄く良い音楽を聞き逃していたということに気づかされた。
聞き終わったときにはR&BやHipHopがもっと聞きたいという衝動に駆られすぐにメアリーJ.ブライジ、TLC、ナズなどのアルバムを買いにCD屋に走った。それからというものどっぷりとブラックミュージックにはまってしまい、遂にはニューヨークにまで来て、素晴らしいビジネスパートナーに出会い音楽雑誌を作ることにまでなった。
そういった意味では私の「ヴェルヴェット・ロープ」との出会いは重要な節目、即ち個人的レベルでの一つのマイルストーンとなった。
そして、このアルバムに大きな影響を得たリスナーが私だけでない事は容易に想像出来る。
きっと、他の多くのリスナーにとってもこのアルバムがそれぞれの人生の中でのマイルストーンとなっていることであろう。
